「より良い演出」を思考する②

どうも皆さんこんにちは、RiG++団体長のMtです。本記事は前回の「より良い演出」を思考する①の続きとなっております。
まだ読んでない方は前記事から先に読んで頂いた方が本記事の内容がより理解しやすいと思います。
今回あちきがダラダラと遺していく内容はこんな感じ。

良い演出の例 – 続き

皆さんはゲームを作ったり、映像を作ったり、はたまた3DCGで見栄えを良くしたり……そんな途方もない正解を探す旅を1度でもしたことが…………
これは前回語りましたね、もういいでしょう。
もう一度述べておきますが、これは僕の備忘録で永い長い道のりの一つに過ぎないものです。絶対に完璧なわけないことはご了承下さい。
自分で判断して、良いと思ったものを取り入れたり参考にして貰えれば幸いです。
それでは早速、前回の続きからいきます。

色の使い方とその強力さ

さて、2つ目の内容はに関して。

皆さんは普段、視界の中にある色や形を常に細かく意識していますか?
これはきっと、答えはNoだと思います。そんなことをしてたら気が狂います。
ただ、だからと言ってゲームや映像内で杜撰な色使いをすることはNGです。絶対。
誰しも細かく世界を観察している訳では無い、ですが、
皆生きてこの世界を見続けています。
つまり、色に関しては全員が差異を感じとるスペシャリストなわけです。絶対に手を抜いてはいけません。
そして、色の細かな変化世界観に多大な影響を齎します。つまり、ここを適当にすると作品全体に甚大な被害が出かねません。気を付けましょう。

とは言っても、

最初は抑々「気を付ける」方法も分からないでしょう。最初なので当たり前です。そんなに悲観しなくても大丈夫です。
ここから書くのは主に、色をどう「気を付けて」、「効果的に利用」するかになってきます。
基礎であり最重要項目でもあります、是非右も左も分からない状態から右往左往できるようになりましょう。

色のパラメータ

人類は色を扱うために様々研究して、知見を得てきました。
それの一つがこの「色のパラメータ」に関してです。
あなたが義務教育をきちんと終えていれば、「色の三原色」や「光の三原色」なんて言う言葉を聞いたことがある筈です。
これから説明するパラメータは、この「光の三原色」というものが強く関係しています。
以下の画像は光の三原色と色の三原色を説明するときによく使われるであろう関係性を示したものです。(画像引用元:https://hirotama.blogspot.com/2018/12/three-primary-colors.html)

左の画像が光の三原色の赤(R),緑(G),青(B)、右の画像が色の三原色のC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)です。また、左右の混色方法を左から順に加法混色減法混色と呼びます。2種類の色の表現方法が存在しますが、今回はRGBを用いて話を進めていこうと思います。

コンピュータ上で色を表現する場合、R,G,Bの値をそれぞれ16進数にしてどの色がどれだけ含まれているかで表現されます。
一番小さい値である#000000を黒一番大きい値である#FFFFFFを白として、様々な色が表現されます。最初の2桁がRの強さ、次の2桁がGの強さ、最後の2桁がBの強さです。

例としては、#FF0000#00FF00#23A673#774499のように表記、表現されます。

基本的には、これらの色を様々なオブジェクトやテキストなどに用いることになります。これで、色というものをデータとして表現でき、最初の方に述べたリファレンスとの見比べ感覚だけでなく、データを用いてできるようになります。
人間の目はしばしば錯覚を引き起こすので、絶対的な数値として比べられることはとても重要です。

リファレンスの色や色同士の関係をスポイトで確認して、実際に絵に反映して……みたいなことをイラストレーターさんはやると思います。そのため、そういった確認をよくする方にとっては普通のことのように感じるかもしれませんが、そういった経験がない方にとってはそうではありません。もし、「なんか上手く世界が再現できないな……」と思った方は是非、数値での色の確認をしてみることをお勧めします。
この色の確認は勿論、フォトリアルなものの再現に留まりません。例えばシネマティックな色使いや好きな作品の色使いなど、自分が近付けたい色味のリファレンスと比べることで世界観の構築をよりロジカルにできるようになります。
YouTube上で見つけた、参考になりそうな動画のリンクを貼らせて頂きます。是非確認してみて下さい。

色の相対性

先の内容の中で、「人間は錯覚を起こす」と言いました。
これ自体、絶対的な色を確認しようとする場合は邪魔になる要素のように書いてきました。しかし、この相対性も理解できれば色の扱いも幾分か上手くなることができます。

錯覚の例

以下の画像をご覧下さい。

こちらは前記事にも登場しました画像です。こちらの2枚の画像のテキストの色を見て下さい。
どちらも青色系統の色に見えると思います。しかし、こちらの色を再度チェックしてみると、

はい、覚えていた方はお察しの通りですが、二枚目の画像は全然青色ではありません
これが色の錯覚、相対的な関係により印象が変わるものの例です。
右の画像は、背景の色より少しだけ青色に近いことが分かると思います。この程度の差ですら人間の認識はズレるのです。
こんな風に、人間は認識で勝手に色の関係性を解釈し、絶対的な色とは違った結論を導き出すことが多々あります。
そして実はこの相対性とそれに対する勝手な解釈は、どんな時でも常に存在します。このことに関して考えてみましょう。
例えば、昼の人間の皮膚と夜の人間の皮膚の色は全然違うように見えます。しかし、それに対してあちきたち人類は、「色が変わった!」とは全く思わないわけです。これは、外の環境や他に見える色との差、過去の経験などから認識で補完して変わっていないように知覚するからです。この認識の働きを色恒常性と呼びます。

人間はこの認識の補完を常に行っています。つまり、これにそぐわない色使いをしてしまうと途端に違和感を生んでしまうことになります。そのため、この相対的な色の理解を深めることは、より自然に表現したいものを創るのにかなり役に立ちます。昼や夜などの時間帯は勿論、季節や場所なんかも表現できたりします。

色相環

この言葉は三原色の内容を覚えていた方なら知っている概念かもしれません。
以下の画像を見て下さい。(画像引用元:https://hirotama.blogspot.com/2021/01/hue-circle.html)

これは中学校の美術などで十二色相環と学習するものです。先ほどのRGBCYMなどの主要なを連続的に並べ中間色を追加したものです。基本12色や24色を用いる場合が多いです。

この色相環を用いると、補色という概念が視覚的に理解できます。

補色

実は補色は思った以上に深いものになっていて、演出を考えるうえで必須事項となります。
今回は分かりやすくするため、RYB色モデルというものを用いて説明します(画像の十二色相環の色の表現方法です)。RGBやCMYKでは補色の関係が赤に対してシアン、緑に対してマゼンタになります。

補色対比の関係はとても強力です。しかし、なぜここまで強力なのかはあまり触れられません。そのあたりの人間の認識の事なども少し紐解きながら説明します。

反対色過程

反対色過程は色覚のメカニズムです。このメカニズムは、ヒトの視覚系が視細胞から受け取る信号を対立的に処理するというもの。

反対色過程には3つの反対色を認識するチャンネルがあると考えられていて、
それが、そして明るさ(輝度と言います)に当たる白と黒です。

例えば赤色を長時間見た後に白色を見ると、緑色の残像が残ります。ほかの色でも同様に補色残像が知覚できます。これは視細胞による疲労から、バランスを取ろうとする知覚補正を行うことで引き起こされます。

また、補色は混ざらず、「緑っぽい赤」や「青っぽい黄」は存在しないのです。その色覚のメカニズムから、人間は補色から特に強いコントラストを感じ取ることになります。際立って見えるのです。

色相環反対色過程

ここでもう一度色相環を確認してみましょう。すると、大体赤の反対に緑、青の反対に黄の関係ができているのがわかると思います。つまり、この反対色、補色となる色その中間色を並べることで、結果として様々な色に対する補色が分かりやすく見られる色相環が象られます。

色と演出への応用

ここまでで、人間の色覚の仕組みから補色がなぜ強力に作用してしまうのかが明確になってきました。
それでは、その補色の確認はできるので、具体的な使い方に移っていきましょう。
インターネット上に存在する様々な作品から扱い方の例を見ていきます。

画面全体の印象を強める

補色対比はとても強力で、画面全体に散りばめることでその印象を強めることができます。

こちらの映像では、黄と青を基調に散りばめられています。先に述べた通りこの二色は補色であり、混ざることのない色同士です。この補色関係にある二色を画面上に配置したり、時間軸上で切り替えてあげると強く目を惹く、力強い映像になります。
この技術は勿論映像のみではなく、演出やキャラクターデザインなどにも応用可能です。

こちらのキャラクターは応用の説明のために今描いたものです。
この例では青を基調としたデザインにアクセントとして補色に当たる黄を入れ込んでいます。
このように、ベースとなる色に対してアクセントで補色を取り入れると、単調な印象を簡単に薄れさせることができます。

記憶に残したい瞬間に取り入れる

これは前回に繋がる内容でもあるのですが、認識抵抗値を覚えていますでしょうか。
簡単に言うと、その演出や絵面を見ていて疲れてしまう度合いを指す、あちきの生み出した言葉です。
この補色という情報はその性質上情報量が脳のシステム的に考えて多く、脳内の処理量が増えることによって「見たときの一瞬が長く感じられる」効果を持ちます。
これは使いすぎると見疲れを引き起こしてしまう可能性がある反面、記憶に残したいカットキャラクターの登場技の演出など、目的に応じた場面で用いることで「一瞬なのに何故か記憶に残る」を演出しやすくなります。

以下の2つの動画を御覧下さい。

これらは説明用に作成した映像です。左の映像のエフェクトは全て単色で、右の映像は黄色に対して補色の青や紫をエフェクトに取り入れています。
単純に色が増えたから、というのもありますが右側のほうが華やかになり、印象により残りやすいと感じられると思います。
単純に毳々しくすれば良いと言うわけではなく、上手く彩度や明度を落とし明るい色と対象的に用いることで、目を過度に疲労させることなく印象に残りやすいエフェクトなんかが作れるようになります。

補色を扱う注意点

無論、全部が全部補色で補えば良いや!という訳にはいきません。先程も述べた通り、補色は目の負担も大きく、無茶に使いすぎると疲れて見ることのできない作品となってしまいます。そのため、補色を上手く使う場合、バランスが求められます。この辺りの話も「リファレンスをしっかり確認しよう」という話に落ち着いてしまうのですが、それだと面白くないので、共通で使いやすいような注意点を幾つか書いていきます。

比率が1 : 1に近づく程緊張感

確固たるテーマが存在する場合は勿論否定はしませんが、印象の強さと同時に安定感を狙いたい場合は補色の色の範囲や明度、彩度の値を1 : 1に近づけるべきではないと考えます。
人間の視覚は無意識下で色の主従を決めようとします。これは図と地の効果と呼ばれるものやサリエンシーマップ理論バイアス競合モデルなどの研究で触れられてきたことであり、認識は無意識にどこを切り捨てるかなどを思考しています。ですが、様々なパラメータが1 : 1に近い場合、これらの効果が上手く適応できず、認識の中で緊張が生まれます。
また、1 : 1の状態だと、切り捨てるはずの脳のリソースも食い続けてしまうため、あちきの定義した認識抵抗値も莫大なものになり得ます。

以下は見て疲れてしまう様なケースの一例です。(目が痛くなる画像なので隠しています。)

クリックして画像を表示

この通り、扱いをミスしてしまうとちょっと見るのも憚られるような、言わば「見る劇物」と成り果てます
(見たくないのに印象が強すぎてどうしても目に入ってしまうという最悪な事態すら引き起こします。)

補色で点滅を作らない

これに関しては、特に補色が際どくなってしまいますが明度の高い色全般に言える内容です。これはあちきも絶対に使わないように気を配っている部分です。(なので具体例は提示しない形にさせて頂きます。)
イメージしてみてください。例えば白と黒の交互の点滅をしている映像です。これはとても目に強い刺激を与えるものであり、強い印象や多大な情報量を引き換えに甚大な目の疲れを引き起こします。上の画像は点滅さえしていないにも関わらず目が疲れてしまいます。これが点滅に置き換わったとしたら、この画像どころの話ではありません

また、あちきが絶対に使わないよう気をつけている、更に大きな理由としてもう一つあります。それは、光過敏性発作と呼ばれる光刺激によるてんかん発作など、実際に健康に被害が及ぶ可能性がある点です。日本のTVでも過去にポケモンショックと呼ばれる健康被害もありました。もし弱くても点滅が入ってしまうような映像になる場合は先に「点滅注意」と断っておくことも大切です。
演出の中で点滅に近いものを用いる場合は、明度や彩度の差を小さくしたり、補色を避けるなど工夫が大切になります。

オブジェクトの動きと流れ

演出を作るうえで、どこかぎこちない映像になってしまったり、ちぐはぐな演出になってしまったりしていませんか?
そんな方はここから書く内容を意識してあげると改善するかもしれません。

流れ」の重要性

どこかぎこちなかったりちぐはぐな演出になってしまっている場合、結構な確率で「流れ」の意識不足が大きいです。
流れとは、次の動きが予測と合うかどうかであると考えます。
演出の視聴者は無意識に、その次の瞬間の映像を頭の中で予測しています。
これは予測符号化理論(Predictive Coding Theory)として言われる内容と一致しており、またその予測から現在位置、速度、加速度などを用いて経験則的に脳内で次フレームを補完するという他のいくつかの研究とも一致します。
ここから、これが人間の感じ取る演出の「流れ」の正体だと考えられます。
では、「流れが悪い」映像とは一体何なのか。
ここでヒントになってくる考え方が、イベント分節理論(Event Segmentation Theory)の考え方です。この論は、人は無意識下で「連続した出来事毎にまとまり(=イベント)として区切る」ことをしており、「予測との誤差が大きくなる(=流れの予測が外れる)」ことで「区切り、切れ目」が発生するというものです。
これらの考えはなんと、あちきの考えている情報量や認識抵抗値、面白みの部分に関係して考えることが容易にできます
例えば、映像の中の動きの流れに区切りが無さすぎる場合、予測が過剰に当たりすぎる、即ち時間での情報量の変化が乏しく退屈な映像に感じやすくなり、逆に流れが少ない映像や演出の場合、予測が頻繁に外れることで次フレームの補完も上手くできずに疲労し、認識抵抗値が大きくなり疲れる映像になりやすい。
このように流れのバランスも情報量や面白みに関連して思考することができるようになります。

動き」で「流れ」を制御する

さて、こんな論文じみたことを書いていますが重要なのは「人間は動きを動きとしてではなく、次の瞬間の予想のための変数としてみている」という事実です。つまり、その瞬間の動きは次の瞬間へ説得力を持っていないと違和感として捉えられてしまうわけで、この違和感が然るべきところで発揮されていない場合無駄に予測誤差の修正に脳のリソースを割いてしまい、見疲れる映像になってしまうという自体が引き起こされるわけです。

そのため、次の瞬間に違和感を覚えないかという確認を行いながら演出を試行錯誤する必要があるということになります。
しかし、現在困っている場合きっと、あなたにとって上手く流れのある動きが作れないことが問題となっているのでしょう。
そこで、流れを生み出し制御できるオブジェクトの動きなどを色々纏めてみました。
動きの作り方に困ったら、是非参考に動きを思考してみて下さい。

前の動きを引き継ぐ

元々前のイベント上で動いていた流れを、別の新しいオブジェクトで引き継ぐ方法は簡単で明確ながらどこまでも突き詰めることができます
以下はYouTube上で見つけた例です。

これらの映像は次から次へと場面が変わるものの、一つ前の動きを引き継いで次の場面のものが動いているので繋がりや流れを感じ取ることができ、違和感を覚えにくくなっています。
これらの例のように、目まぐるしく変わる場合でもメインのオブジェクトの動きを一筆書きのように繋いであげると意識して作りやすいです。
また、1つ目のリファレンスの最初で用いられているようなオブジェクト同士の「意味の繋がり」も流れを構築する1つの手段になり得るので、是非利用してみて下さい。

同じ動きを繰り返す

この手法は、画面の中のオブジェクトに同じ動きを繰り返すようにして、一定の動きを付けながら予測させやすいようにするものです。この手法は再現自体はシンプルにできますが、常に動きが生まれるため他の動きと組み合わせた場合に大きな情報量になり得ます
具体例は以下の通りです。

音声や条件に沿って動きを付ける

この手法は、動きに条件や規則を持たせることで予測させやすくするものです。この手法はここまでの2つとは違い、条件元に変化がある場合に連動して不規則に動くため、条件元の変化量及び面白さが求められる特殊なものになります。
具体例はこんな感じです。

同じオブジェクトを残し続ける

この手法は、画面全体の動きの中で、変化しない部分を作ること予測する負荷を減らすことができるものになります。
その結果、変化しない部分以外が大きく変化しても1つのシーンのように誤認させることができます。
これは残り続けるオブジェクトが大きければ大きいほど効果は大きいものになり、1つのシーンのように感じやすくなりますが、逆に言うと変化に乏しくなり情報量変化量の欠如を引き起こす可能性があるということにも注意が必要になります。
幾つか具体例を挙げます。

レターボックス

きっと様々な場面で、それもかなり見ることがあるんじゃないかなという基本的手法です。以下に具体例を示します。

これらの動画の共通点として、上下に黒い帯があるのがわかると思います。これを「レターボックス」と呼びます。
本来レターボックスという技法は、画面比率を補正する目的で使われていたものですが、ここ数年では

  • 情報量を意図的に減らし、中央のコンテンツへの視線誘導
  • シネマティックドラマティックな印象を強める
  • 歌詞を置くためのスペースとしての利用(ボカロ曲MV等と親和性が高い)

このように別の用途・目的をもって利用されるようになってきたという背景があります。
これらの背景、用途の幅広さに加えて実装のし易さから広範に普及したんじゃないかなとあちきは考えています。
また、これはあちき個人の感覚的な話になりますが、この技法は少し緊張感を生み出すになると感じています。見ることのできる景色を絞る、即ち映像の自由度を落とすことで不自由な圧迫感、もとい緊張感を生み出すんじゃないかと思考しています。
それ以外にもシネマティックな雰囲気から「物語性」「構図の重厚さ」なんかにも寄与できる技法だとあちきは捉えています。是非簡単なので気軽にお試し下さい。

フレーム

これも最近よく用いられる手法です(正式な名前はないようなので便宜上ここでは「フレーム」と呼ばせて頂きます)。具体例としては以下のような映像が挙げられます。

これらの具体例を見て頂くと、判りやすい大きな共通点みたいなものは存在しないことが分かると思います。がしかし、画面上で決まった形に(そして大まかに映像全体を囲む形で)配置されるオブジェクトがあることが分かると思います。
この技法は、レターボックスのように形が決まったものに比べて映像や演出のテーマに沿う形で作成・配置が可能なものになります。そのため、世界観の表現統一感の演出に一役買ってくれる技法になると考えています。
こういう配置はGUIやゲームのUIなんかにも多少繋がりがある表現なので、「作品に纏まりがないな」と感じた方は試してみて下さい。

格子背景

これは似たような表現方法をまとめた内の一つを代表として紹介します。
具体例を挙げます。

これらの映像では、格子線が背景に配置されている構図がところどころ取り入れられています。
こちらの技法では、背景にオブジェクトを並べることにより空間を演出し、1つのシーン上で描かれるものに見せることで絵全体でまとまりを作ることができます。格子線に限らず、空間を演出してその中でオブジェクトを動かしているように見せる演出は、その空間という世界観を作ることができるため強く意味付けができます。

覗き穴形式

こちらも時々見る表現方法です。
他のものに比べて画面全体での変化の大きさがかなり小さいことが特徴として挙げられます。
しかし、このような手法ではそこまでつまらない映像になりにくい傾向があります。こちらの原因は次回の記事にて詳しく説明します。
具体例は以下の通りです。

これらの具体例を見て頂くと分かると思いますが、この手法を用いると殆ど限られた部分に視線が集中します。この手法を用いると引き締まる効果圧迫感、若しくは覗き窓の見えない部分に対する未知への期待なんかも表現可能になります。

この手法の注意点としては、視線が一点に強く引き付けられる分その部分の情報量変化量が足りないなどで面白みに欠ける絵面になってしまった場合補う部分が他に無く途端に画面全体への興味を失ってしまう可能性があることです。そのため、もしこの技法を用いる場合は集中される箇所に細心の注意を払って演出を形作る必要が出てきます。

トランジションで流れと区切りの中間

次の手法は、トランジションを用いることです。トランジションは前後の別々なシーンを、動きと流れで無理やり繋ぐことのできる準チートレベルの技法になります。しかもこの技法の良い点の1つとして、一度、一瞬でも画面全体を覆ってしまえば前後を無茶にでも繋げられてしまうので、その演出や動き、方法が発想次第で無限に生み出せる点にあります。こういう点から、トランジションだけの映像素材を配ったり販売したり、なんてことも普通に行われます。
そして、見出しにもある通りトランジションは「流れと区切りの中間」をゆく編集技法に当たると考えられます。
前後の流れが一致する様なトランジションを挟み込む場合、連続性の評価が高まるという研究や、逆に流れに逆らう様なトランジションを用いる場合、より一層区切りを強調する結果になるという研究などが様々あります。
幾つか表現技法を挙げていきます。

カット

こちらは基本中の基本の編集技法です。動画編集などに知見がない方でも分かるであろうレベルのものですが、基本は大切です。この「カット」にも様々切り替え方があります。

ハードカット

このカットは、前のシーンから一切の補間を挟まずに次のシーンに繋ぐものです。
こちらは明確に強い区切りとして人間は認知します。理由としては、次の瞬間の予測が全く意味を成さず切り替わり、はっきりとした認識抵抗が生まれるからです。

尚、だからと言ってこの手法から逃げるべきではありません。例えば人間は瞬きなどで実際に経験しています。これは、ぴったり当てはまる瞬間を捉えることができれば一番自然に収まる可能性もある、ということに他なりません。

マッチカット

このカットは、前後のシーンでの動きや形、構図などを一致させるものです。具体例は実は既に存在していて、これが当てはまります。こちらはハードカットとは全く違い前後の流れが強く意識されたものになります。これにより場面や見た目が大きく変化したとしても小さい認識抵抗で流れるように認識しやすくなります。しかし、勿論問題もあります。本来区切りで得られる筈だったイベントの違いを認識しづらく1つのイベントのように見えかねないので「区切り」を目的としている場合逆にパッとしない印象になってしまう可能性があります。

ディゾルブ

このトランジションは、前のシーンが薄れて次のシーンが徐々に浮き上がってくるものです。この表現技法では、明確に違う場面と判るものの、変化が予測しやすいこともあり滑らかに繋がりを表現しやすいものになります。心情表現情景描写としての意味合いで用いられることも多く、心理的な移行時間の経過因果の繋がり回想などに用いられることが多く、その利用法に沿う方が視聴者の感覚とも合いやすいのではないかと考えられます。かなり使いどころが広く見えますが勿論問題点もあり、それが「大きな変化でない」ことであり、屡々退屈さを感じてしまうこともあるので注意が必要です。

ワイプ

このトランジションは、画面の一部がスライドし、別のシーンが差し込まれる様に入ってくるものです。ワイプはトランジションの中でも特に強い方向性を持っていて、明確に動きを付けることができるものになっています。この演出の形式上、この動きだけをまるまる考えなしに取り入れてしまうありふれたものとして視聴者に処理されてしまうことがあります。しかし、切り替わったということの提示力がかなり強い表現方法であり、これも上手く扱えば滑らかに大きな変化を画面に作り出せる表現方法なので、研究してみるのもいいと思います。

ゲームとトランジションの相性と解決

実は、ゲーム内で下手にトランジションを入れ込むことはあまりよろしくないものとして考えられます。
ゲームや認知の没入感の研究で、没入感は段階的な体験であり、その没入度合いが高い程認知の処理能力が没入しているものに偏ることで余裕が無くなるらしく、例えばゲームにより集中していると周りの声が聞こえなくなったりするということが研究で示されています。これはつまり、ゲーム内の演出などは逆に注視されていることになります。
その中でトランジションのような不連続な演出を差し込む場合、操作の手が止まったり入力に対する反応の予測が外れたりという事象が起こり、結果的に没入していた処理内容が不安定になることで注視先の再分配が引き起こされます。これが言わば集中が途切れてしまうということが思考できます。映像でいう見疲れに似たことがこちらでも、比較的容易に起きてしまうわけです。

しかし、勿論トランジションをゲーム内で生かす方法も存在します。
ゲームにおけるトランジションは「流れを作るため」には用いず、「予測できる状態で区切りを明確にするため」に用いるのが良いと考えます。
まず、ここで映像とゲームとでの認知の差を考えます。それは、映像では「次の瞬間の予測」をしていたのに対しゲームでは「次の自分の入力結果の予測」をしているということです。映像は常に受動的で、流れてくる情報が如何に処理しやすいかで良し悪しの感じ方が変わります。それに比べてゲームのプレイ体験は能動的なものであり、情報を受ける以前に入力を自ら行うため、入力に対する反応の予測可能性が重要になります。
これはユーザインタフェースの論と同じです。入力に対する心地よさプレイ体験、没入感へ繋がるという構図であり、この心地よさを守らないと認識に抵抗が働き没入感を低下させることに繋がります。
この没入感に影響しない形のトランジションの使い方の例をまとめようと思います。

入力=トランジション発生

この用い方は、入力に対する反応の1つとしてトランジションを返すというものです。
この手法なら「入力したので反応が返ってくる」という予測はそのまま演出に移行できるという利点があります。
具体例としては、マップの切れ目を通ると暗転して次のマップへ進む、みたいなものが挙げられます。シンプルながらに判りやすく場面を変化させられます。
この意味のある入力したという「主体性」を守ることがゲームの没入感にとって必要不可欠であり、この手法は主体性を用いてトランジションのデメリットを上手く隠せるものになっています。

トランジション中の入力を継続

この用い方は、トランジションは起こるものの入力に対する反応は変わらず返ってくるというものです。
この手法は例えば、ロード中でもキャラクターを動かせる、みたいに場面の変化自体は起こっているものの入出力は普通に存在するので主体性が失われない手法になります。
この認識に対する論が合っていると考えると、どうしてもロードに時間がかかってしまう場合など、挟み込む演出の中に入出力を用意するだけでも効果はあると思われるので、是非取り入れてみて下さい。

情報量を減らす休息のトランジション

この用い方は、合間合間に挟む極小の暗転や情報量の低下であり、いわば休符と同じ役割になります。
この手法のメリットは実質的な没入プレイ時間の延長が見込める点です。例えば全く休憩の無いゲームを没入的にプレイしていたとしても、いずれ疲れてしまいます
それに対してところどころに1~3秒ほどのフェードイン・アウト配置しているテキストを減らしたりしてあげると、どうしても発生する情報を処理する認知の疲れをその都度少しずつ取ることができます
例えば殆どのゲームで言えますが、ステージをクリアした後に数秒の暗転に移行すると思います。これを実装するだけでも、疲労の感じ方が大きく変わると考えられます。
あなたの製作するゲームに一息つける時間はありますか?
一瞬思考を放棄できる時間はありますか?
もしなければ、是非検討してみて下さい。

最後に

さて、今回は演出の中の動きの流れについて思考してきました。
正直なところ研究なんかも見漁って、あちきの考えが認知のシステム的に正しいことなどが分かったので書いていてテンションは上がっていました。
そんな演出について考える記事も次回が最後になる、と考えています!
是非あなたの考えに合う内容があれば色々取り入れてみて下さい!

それでは、良い創作ライフを~👀

P.S.
次回記事を投稿しました!

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