微分音のすゝめ ~発想と仕組みから実践方法まで~

どうも。
今日は12/21。日付が回文ですね。どうでもいいですね。失礼しました。

初めまして。RiG++のrefoです。
私は音楽が好きで、数々の名曲を支えている音楽理論に感動したりしてるただのコーディング課です。

もともとこの枠は別の方が書く予定でしたが、なんか貰ったので書きます。
しかしすぐに書けるものも思いつかず…。

というわけで、コーディング課なのに初回にコーディングについて一切書かず、他課の内容を書き出す変な人になりますが、ゲーム音楽制作にもワンチャン(?)使える微分音について紹介することにしました。

それって身近なやつ?役に立つの?

皆さんは、偶に
「不思議な感じがする」
「(ゲームのダンジョンとかで)なんか落ち着かない」

と感じる音楽に出会ったことはありませんか?

例えばこれ↓↓↓

(1:11~)星のカービィ スーパーデラックス 洞窟大作戦 地底の木々エリア。地底の木々って感じ。
壮大。マイクラとかで流れててもおかしくないと思う。
界隈曲から1つ。時々不思議な響き。

実はこれ、微分音が使われてるからなんです。

微分音というのは、簡単に言ってしまえばピアノの鍵盤にない音です。

微分音は、

  • 独特な世界観を出す
  • 浮遊感を出す
  • ダウナーな感じにする
  • 不安感を煽る
  • 新しい響きを追求する

といったことに用いられます。

今日はこの、「普通の音階からはみ出した音」の基本的な発想と仕組みについて、
(ざっくりですが)理論よりで考えていきます。

前提知識:音の正体と12平均律

ここからの話を理解する上でまず知っておいてほしいのが
「音の高さとは何か」
ということですが、
難しいことは言いません。
音の高さは周波数で決まります。
周波数が大きくなれば音は高く、小さくなれば低くなります。

次に覚えておいてほしいのが、
オクターブについてです。
鍵盤を見てみると、1オクターブ、つまりドから次のドまでには12個の鍵(けん)があります。

1オクターブ音が高くなると、周波数はちょうど2倍となります。

f=f×2f_{高い方のド}=f_{低い方のド} \times 2

現代ではほとんどの場合、半音(=隣り合う音)の音程がどこも一定になるようにそれぞれの周波数を決めています。
これを平均律といいます。
この際に、1オクターブをnn個に分割するものをn平均律といいます。

f=f×21/nf_{半音上の音}=f_{基準の音} \times 2^{1/n}

今回の場合、1オクターブに12個の音があるので12平均律です。

f=f×21/12f_{右隣の音}=f_{基準の音} \times 2^{1/12}

実は、今一般的となっている12平均律にはちょっとした「落とし穴」があります。
後述しますが、ひとまず次からはこれを発展させていく方法を見ていきます。

アプローチ①:グリッドを細かくする

まずは、メロディを中心に考えてみましょう。
1オクターブに12個の音、というのは、ある意味表現の幅を狭めていると言えます。

勿論、無調音楽とかでもない限り12音すべてを使うわけでもなく、
使える音(スケール)を選ぶことで、一貫したメロディメイキングができるわけですが、
その選ぶ音はもっと自由であっても良いはず。

先ほどnn平均律という話をしましたが、
このnnを12から増やしていけば使える音が増やせる寸法なので、やってみましょう。

ただ、ここで無作為にnnを選んでも、うまくやりにくいと思います。

ここで一例として、nn12の倍数を選ぶと、元のドレミの音を残しながら新しい音を使うことができるようになりますよね?
短絡的に言えば、半音の間を等分することで新しい音を手に入れる、ということになります。

中東音楽と四分音

一番最初に例に出したカービィのBGMを思い出してほしいのですが、
どことなくアラビアンな感じも感じた方もいるのではないでしょうか?
というのも、この曲は中東音楽で用いられているマカーム・ラーストを少し改変したものを使用しています。
これは24平均律に包含して捉えられることがほとんどです。

そもそもスケールに12音以外を使っていないのは、西洋音楽の特徴であって世界の音楽の中には当然それに倣わない音楽体系があります。
マカーム・ラーストはスケールに使う音として一部に四分音(しぶんおん。=半音の半分)に近似される音が用いられています。

下の楽譜にある♭(フラット)が左右反転したもの(ハーフフラット)が四分音で、これは音を半音下げる代わりに四分音1つ分だけ下げるものです。

先ほど近似と言ったように実際のところは少しずれがありますが、地域や時代によっても差異があり、EDMなどでの実現のしやすさから四分音として考えることが多いようです。

Siddharth Patil – 投稿者自身による著作物, CC0, リンクによる

なので実践としては、マカーム・ラーストを使ってみるのが良い入門になると思います。他にも、ブルーノートの考え方はこれに近いかもしれません。

ずらしてみる

コンセプトはほぼ同じですが、面白い使い方があります。

それは、ゲーム中の他の曲に対して、1曲だけ基準音をずらしたり、1曲の中で1つのパートだけ少し音を高くしたりするものです。

厳密に言えばこれらは微分音に当たらないとすることが多いですが、同じ環境の中に基準の異なる音が混在することで生まれる雰囲気は微分音的効果と言えると思います。

1曲だけずらしている例としては、Undertaleの『ASGORE』、1パートだけずらしているものには、どうぶつの森の『アーバンけけ』などがあります(ハミングが四分音だけ高い)。

アプローチ②:美しい和音

少し前に12平均律には落とし穴がある、と言いました。
そうです、12平均律は

完全無欠ではありません

これは言わば妥協の産物であり、
微分音に関係なく、全ての音楽で聴き心地がいいとは限らないのです。
この点を深堀りしていきます。

和音と純正律

そこで、まずは和音の仕組みについて理解する必要があります。

和音は、2つ以上の異なる周波数の音を同時にならすことで、響き合う状態を作る音のことを言います。

ですが無作為に音を重ねてもうまくいきません。
きれいに響く音というのは、背後に数学的な理論があるものです。

1オクターブは周波数が2倍となる関係にあると言いましたね。
これは周波数が1:2の関係だ、と言い換えることができます。
一般に、簡単な整数比の関係にある周波数同士の和音は、よく響き合います(例外あり)。
ここで、他の音の関係についても「比」をもとに見ていきましょう。

1:3はドとソの関係です。1オクターブの幅に収めると、2:3も同じ関係と言えます。
1:5はドとミの関係です。これも1オクターブに収めると、4:5となります。
12平均律との違いを実際に聞いてみると…

ソはそこまで差異が大きくないですが、ミは結構違いがわかりますね。

西洋音楽のドレミは色々な決め方がなされてきましたが、その1つとしてこの3倍、5倍の関係を使って作られたものがあります。これを純正律といいます。

=89=45=34=23=35=815\begin{align*} ド:&レ&=8:&9\\ ド:&ミ&=4:&5\\ ド:&ファ&=3:&4\\ ド:&ソ&=2:&3\\ ド:&ラ&=3:&5\\ ド:&シ&=8:&15 \end{align*}

実際に、声楽や吹奏楽、オーケストラでは響きをよくするためにこの比を利用することも多いです。

5倍のその先

西洋音楽では、1:5から先の1:7や1:11といった比は用いられません。
しかし、これらも比較的単純な比と言えますし、西洋音楽にはない夢幻的な雰囲気や鐘などの金属間のある響きを出すことができます。

この方(LΛMPLIGHT氏)は、1:11までをポップ調に仕立てています。shortsにあるこの動画も気に入っているのですが、shorts動画をここに載せるとバカでかくなってしまったので諦めてこっちにしました(おま環かも)。

純正律の問題と妥協としての平均律

話を戻しまして、
じゃあ今はなぜ多くの場合に12平均律が使われるようになったのか?
それは純正律は転調できないからです。
純正律の比から、レとラの比を計算してみると9/85/3=27409/8:5/3=27:40となり、=23ド:ソ=2:3に対して誤差が大きくなってしまいます。

こうなると、レを基準とした和音やスケールが作りにくくなってしまうわけです。
声楽などではその場で基準音に合わせるといったことができますが、ピアノなどの事前に調律する必要があるものはどうするのでしょう?

そこで、近似を取ることを考えます。
その結果生まれたのが平均律だったわけです。

平均律は、多少の響きの誤差を犠牲にしますが、音の幅が一定であることで一度の調律で転調し放題になります。

妥協と言っていたのはこの点です。
しかし、なぜ12平均律なのでしょうか?

理由はいろいろあるかと思います。
12というのが美しい数字と考えられていたから、というのもあるでしょうし、nnの値が小さい中では比較的良い近似になっています。

とはいえ、特にDTMにおいては、このn=12n=12を用いているのは伝統に倣っているに過ぎません。逆に、12平均律による濁りが一貫した(西洋的)世界観を生んでいるかもしれませんが。
とにかく、濁りを抑えることを優先する場合、西洋音楽の範疇でも53平均律は純正律との誤差が非常に少なく、かつ転調に対応することを可能にします。

他にもあります。5倍よりも先の和音は12平均律で表現するのは厳しいのですが、31平均律は3倍~11倍の和音の誤差が小さく、しかも各誤差はかなり一定です。界隈曲でちょっとずつ使われ始めているみたいです。(最初の方で出した例にもありました。)
LΛMPLIGHT氏は41平均律を用いていて、これもかなり良い近似となっています。
平均律の比較は、次の動画が視覚的、聴覚的に面白いです。

どうやって作ってるの?

ボーカルやギターの録音などは、奏者が音程を調整することで実現されます。
では、打ち込みのDTMの人たちはどうするのでしょうか?

一時的な微分音や、そこまで音数が多くないのであれば、先ほど紹介した比の計算をして、1つ1つをピッチベンドすることもできますが、それでも大変な作業量になります。

有料で、Entonal Studioのような微分音御用達のVSTも存在しますが、私は持っていません。

そこで、VSTプラグインの中には、Vital(基本無料)やDexed(無料)、Kontakt(有料)のように、チューニングが比較的簡単にできるものがあります。
今回は、これを利用する方法を紹介します。

Warning

私はDAWにReaperを使用しているので、スクショで見せるのはReaperの画面になりますが参考程度に。
Reaperの利点として、UIなどの設定の自由度が高いので多少やりにくさを解消させることができます。
まあ基本VST上の話なので、特に初めに紹介する方法は基本どのDAWでも使えるはずです。

その方法は、キーボードの白鍵と黒鍵をフル無視して、半音の間隔をn平均律に変えてしまう方法です。
先ほども名前が挙がったLΛMPLIGHT氏の以下の動画(日本語字幕あり、というか推奨。)が参考になるかと思います。
この方のサイトを用いるので、本人が説明しているのを見てもらった方が分かりやすいかなと。

この方法はかなり自由度が高いですが、
黒鍵のガイドを完全に無視するので非常に見辛く、nn平均律のnnの値が大きいと使える音域が限られてしまう、といった欠点もあります。

41平均律。上で紹介した方のFudaliamaを再現しようとしたもの。
41平均律。LΛMPLIGHT氏のFudaliamaを再現しようとしたもの。

他にも方法はあります。DAWにReaperを用いている方は、中井三十一氏のこのサイトが参考になります。他のDAWの方も頑張れば実践できるかもしれません。ちなみに、この方は界隈曲の解説をしていて、UTAUの微分音調整法も書いてます。

31平均律。オクターブ間の音を全部並べてみたところ。

あと、最近自作VSTの話が出たので、かなり大変そうですが何かできるかもしれませんね。

最後に

微分音についてここまで解説してきましたが、いかがでしたか?

実践については、もう少し詳しく書けたかもしれませんが、微分音自体の解説を整理し続けてたら、いつの間にか時間が無くなっていたので、ちょっと適当になってしまいました。すみません。

ただ、一番伝えたかったのは微分音の存在自体とその発想です。

勿論、ここでの話はすぐさま活用できることは少ないでしょう。

しかし、音楽の世界は果てしなく広く深いです。

そんな中で、あの雰囲気の曲にはこんな秘密が隠れていた、ということをここで発見したり、音の響きについて新しい考えを得られたなら幸いです。


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